楽器
2021.09.01 上野
上がることを知らないヘヴィミュージックチューニング戦争
こんにちは、ブランド兼楽器担当の上野と申します。
いきなりですが福岡のメタルコアバンドPALEDUSKのWIND BACKという曲がめちゃめちゃかっこよくて痺れました。
展開が目まぐるしく変化し次のフレーズから次のフレーズへ…
曲調もヘヴィでカオスな刻みパートからのEDMめいたパート、アグレッシブなだけではなくしっかりとメロディを聞かせるところは聞かせてくる…
近年の国産ヘヴィミュージック界隈では頭一つ以上飛びぬけており、国内枠だけに収まらずCRYSTAL LAKEのように世界を相手にできる風格さえ感じさせてくれます。
ギターをコピーしたりもするのですがなんとこの曲のチューニングは7弦ドロップFチューニング!
ただでさえ音が低い7弦ギターの7弦をさらに3音下げする極悪っぷりです。
生半可なセッティングだと7弦はもうベロンベロン、強く抑えれば音はシャープしちゃいますし低音がぼやけて音の輪郭はぼやけてしまいました。
他の弦の振動で何か常にプルプルしてるところとか僕のおじいちゃんに似ていて少し親近感は沸きましたけども。
さて、ここで本題なのですが
ダウンチューニングが極端化する現在のギタリストのとるべき対策とは?
90年代にSteve VaiやKORNの登場、さらにはDream Theaterの台頭により7弦ギターが最もヘヴィとされる時代が到来しましたが
その後のニューメタルムーブメントの際には6弦をドロップチューニングさせる方が主流となっておりました。
主にドロップCやドロップBを多用するバンドが多く、その後のメロデス~メタルコアの流行時にもそのチューニングが多く使用されてきました。
2010年代付近になると7弦ギターが再び注目され始めAnimals As LeadersやPeripheryをはじめとするDjentシーンのギタリストに倣い多くのバンドが
7,8弦ギターを手にするようになりました。
また、この時期になるとモデリング技術が飛躍的に向上しており、KEMPERやAXE FX、HELIXなどの最先端モデリング機材が一般のユーザーにも
受け入れられ始めてきます。
LowFなどのベース帯域に入る音ですと従来のアナログのマイク環境では拾いきれずに音の芯がぼやけるなど、演者側には卓越した音作り、その環境作りが求められました。
しかし、デジタル機材の導入により少ない機材でクリアな音像をダイレクトに客席に届けられるようになりました。
このこともダウンチューニングを激化させる要因の一つになったのではないでしょうか。
話が長くなってしまいましたが、ダウンチューニングの一番の敵がテンションの軟化です。
それをいかにして解決していくのか、ご説明いたします。
対策1:弦を太くする
一番簡単な解決方法で最もスタンダードな考え方がこれじゃないでしょうか。
弦が太ければ太いほどチューニングを下げても音がぼやけずはっきりし、チューニングも安定します。
チューニングごとに適性の弦のゲージなどもありますが最近ではドロップチューニング専用の弦なんかも売っております。(当店では取り扱っておりませんが…)
また、適正ラインよりも少し細めを張れば安定感は少し損なわれますが高音が出るようになりエッジの効いた音も出せるようになります。
筆者の演奏スタイルですとアンプのゲインはあまり上げずにピッキングニュアンスと弦の鳴り感で音圧を稼ぐことがあります、あまりに太すぎると音が出すぎたり
音の分離がよくなかったりするのでこの見極めが非常に難しかったです…(一番太いときは80とかのゲージ張ったりしてました)
対策2:モデリング機材の導入
直接的な解決には至りませんが音作りもダウンチューニングには非常に重要になってきます。
先述した通り最近のチューニングはもはやベースの帯域です。
ですので音作りの際から帯域の棲み分けを意識することが非常に重要となってくるのです。
また極端な音になりますので音作りをかなり追い込む必要性があります、ですので実機では追い込み切れない(金銭的にも)
部分をデジタルの機材で効率的に追い込んでいくという形が最近ですとベターとなっております。
先述した通りマイクを立ててのアナログ手法ですと低音が拾いきれずぼやけてしまう一因となりますし最近の楽曲の傾向ですと
オケ音源と同期する箇所が多くなるため出音は極力ばらつきが無い状態にする必要があります。
ですので最近の手法としては直接PAに音を渡すことが多いです。これなら箱ごとに音を作り変える手間も最低限に抑えられ
自分たちの求める音像を常に客席に届けることができます。
対策3:ギターのスペックにこだわる
一番お金がかかりますので正直あまりお勧めはできませんが…
効果は非常に高いです。
一般的にダウンチューニング用によくとられる手法がスケールを長くすることです。
スケールというとナットからブリッジまでの距離のことですが、一般的なGibsonのスケールですと628.65mm、Fenderストラトだと647.7mmです。
ダウンチューニング専用という触れ込みで販売されているIBANEZのRGR621ですと660.4mm
Strictly 7 GutarsのCobra Spl7ですと驚異の698.5 mm
スケールが長くなるに伴いテンションが高くなり弦の張りも上昇します、しかしロングスケールのギターですと全部の弦がまんべんなくテンションが上がってしまいます。
……
そう思うかもしれませんが以外にこれが結構響きまして…
高音弦もカッチカチになるんでソロを弾く際にめちゃめちゃ弾きにくくなるんですよね…
何のためにダウンチューニングにしたんだ!ゴリッゴリのリフをウホウホ弾くためにダウンチューニングしたんじゃないのか!
そういう心の中の声も聞こえてくるときもありますが、ソロを弾くギタリストにはこのデメリットはなかなかキツイ…
なら
高音のスケールは短くて低音のスケールが長ければいいのでは?
という事でその問題を解決したのが
最近よく見かけるマルチスケール、スケールが違うことでテンションが欲しい低音側は長く、テンションがあまり必要ない高音弦は一般的なスケール長となっております。
ダウンチューニング時も弦がだれることなくテンションの一致感も非常に高いので違和感なく弾くことができます。
また、ブリッジやヘッド形状も着目するべき点が多く、
ナットやブリッジから本体に対し弦が落ちているわけですが、その角度が鋭角であればあるほどテンションは多く感じられます。
ですのでこの手のギターでは裏通し手法が多く取られ、ヘッドにはテンションバーが設けられることも多いです。
番外編
ギターを変えたり高い機材を買わなくてもそれなりに音をすっきりさせる手法ですが
まず一つにゲインを上げすぎないことです。
ゲインが高いと低いチューニングの場合、音が団子になって聞こえてかえって迫力のない音になる事が多いです。
適切なゲイン値は自分の場合少し低いかな?と感じる程度がベスト。ピッキングのニュアンスで音にメリハリはつけてあげましょう。
後は無駄な共振を拾わないためにもGATEは強めにかけてあげると良いです。
アンシミュならばヘッドはディーゼルやPeaveyなどのヘッドをよく使用します。
キャビはあまり拘りはありませんがCelestion Vintage30の使用されているOrangeやMesa、Marshall、Bognerのキャビネットをよく使用します。
マイクは大抵の場合SM58をOn-Axisで、曲調によってはコンデンサーマイクとかを狙って使ったりはします。
そこにブースターでTS系のオーバードライブを突っ込むことが多いですね。
かなりマニアックな話になりますがモダンメタルのギターの音作りはイコライザーで9割決まると思い込んでいる私ですが、
主に150~200hz以下はバッサリカットしていることが多いです、理由としてはバスドラやベースとの棲み分けです。
この辺りを譲ることで音のぶつかり合いが解消されクリアに音が聞こえるようになります。
2khz~7khzを上げると抜け感が上がりますが4khz周辺はあまり上げない方が良いでしょう。この周波数帯は主にピッキングのアタック音の成分が含まれており
あまり上げすぎるとかなり耳障りなサウンドになりがちです。
中音域500hz帯は個人的な好みになりますね、僕自身はタイトな曲だと削ってウォームにしたい曲の場合は気持ち上げています。
また、使っているピックを少し薄くしてあげるのもかなり効果的です。
薄いピックは厚いピックよりも低音が出るのを抑えられ、エッジ感のあるクリアな音を出すことができます。
薄めのメタルピックなどはさらにエッジが強調されるので弾いていても非常に楽しいです。
おすすめはAnimals as Leadersのメインギタリスト、Tosin Abasiのシグネチャーピック